課題の概要

研究開発体制

研究開発課題リーダー

佐藤 健(東京大学大学院工学系研究科 准教授)

参画機関(大学等)

東京大学、理化学研究所、沖縄科学技術大学院大学

参画機関(企業等)

株式会社Quemix、JSR株式会社、トヨタ自動車株式会社、International Business Machines Corporation、みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社、三菱ケミカル株式会社

本課題の特徴

  • 理論
    • 孤立電子、周期系電子、核子系で共通
    • 多体波動関数(量子回路)と一体波動関数(軌道関数)を両方最適化・時間発展
  • 実装
    • モジュール化 + 共通インターフェース
    • 古典・量子混合アルゴリズム

本課題の目的

  • 分子/固体/原子核のシミュレーション共通基盤開発
  • シミュレーション高度化
  • 量子古典融合シミュレーション

成果

固体版TD-OUCCDの開発

  • TD-VQS(時間依存変分量子ソルバー)を固体に拡張し、固体版TD-OUCCD(時間依存最適化ユニタリ結合クラスター法)を開発しました。
  • 固体版TD-OUCCDは、分子に対して開発されたTD-OUCCDを周期系に拡張し、虚時間発展法を量子回路シミュレータ上で実装するものです。
  • 本手法では、軌道関数と量子回路パラメータの両方を最適化することで、量子回路パラメータのみを最適化する他の類似研究よりも少ない量子ビットで高精度な計算が可能となります。
  • 一次元水素鎖においてGauss基底関数を用いて固体版TD-OUCCDを適用した結果、基底状態のポテンシャルエネルギー曲線を精度良く計算できることが確認されました。

TD-VQSの拡張

  • TD-VQS(時間依存変分量子ソルバー)の原子核への拡張に取り組んでいます。
  • 孤立電子系のTD-VQSと核子多体理論の共通点と相違点を整理し、TD-VQSフレームワークを拡張して多成分量子多体系(原子核など)を扱える計算コードの雛形を作成しました。
  • 量子回路シミュレータ上で6Li原子核の基底状態のVQE(変分量子固有値ソルバー)計算に成功しました。
  • 波動関数の自然展開を応用することで、従来の類似研究よりも少ないCNOTゲートで等価な変分量子回路を構築できることがわかりました。

量子ゲート列の探索

  • 深層強化学習を使用して、量子計算の結果として出力される確率分布を再現するための量子ゲート列の探索を行いました。
  • 探索によって見つかった強化量子回路は、量子逆フーリエ変換の量子回路と似た出力を示すが、より少ない量子ゲート数で構成されています。
  • 見つかった強化量子回路を超伝導量子コンピュータで実行し、現在の量子ゲートエラーのレベルでは、ゲート数の少ない強化量子回路の方が計算精度が向上することを示しました。
  • 理論的な解析により、強化量子回路は必要な計算過程のみを抜き出すことによって、よりシンプルな計算アルゴリズムを実現していることが明らかになりました。

冷却原子気体

  • 2成分冷却原子気体において、超流動から絶縁体への相転移に関する研究を進めています。
  • 巨大なボーズ-アインシュタイン凝縮(BEC)中に少数の強く相関した不純物を埋め込むと、不純物は物質波動格子の中で周期的な構造に自己組織化することが明らかになりました。
  • 格子系における超流動からモット絶縁体への遷移を研究し、結合した多体系におけるフォノニック励起をシミュレートすることができます。
  • 量子電池の相関効果に関する研究も行っており、量子ハードウェア上でこれらのデバイスをシミュレーションしています。
  • イジングモデルのクエンチダイナミクスをシミュレーションし、最適なユニタリー演算を用いてエネルギーを取り出せる最大量を求めています。
  • 最適化の精度はシステムサイズと相関関係に依存し、現在アルゴリズムのベンチマークを行っており、将来的には量子ハードウェア上で実行する予定です。

今後の展望

  1. 時間依存変分量子ソルバー(TD-VQS)の固体版プロトタイプの完成 零ノイズ外挿を組み込んだ時間依存変分原理に基づく実装
  2. 時間依存変分量子ソルバー(TD-VQS)の原子核版プロトタイプの完成 核過程の実時間シミュレーションのためのTD-VQS原子核版のコード開発
  3. 超並列量子回路シミュレーターの検証 並列量子回路シミュレーター
    Braket(https://github.com/naoki-yoshioka/braket)を用いた計算環境を整備
  4. 冷却原子など、他の量子多体系への応用に着手 冷却原子相互作用系での新しい超流動とインシュレータ間の位相転移の性質を解析

シミュレーション共通基盤プロトタイプを共有して開発サイクルを軌道に乗せる

  1. シミュレーション共通基盤の開発 【本課題】
  2. シミュレーション共通基盤の高度化 【量子埋め込み】【量子最適化】【量子HPC】と連携
  3. 量子AI-量子シミュレーションの統合 【量子AI】と連携
  4. 産学の共創 【参画企業】と連携